毎月二十一日の午後六時半頃になると、総武線両国駅東口から徒歩二分のところにある鰻屋「両国」へ三三五五お客が集まってくる。やがて二階の座敷から張扇の音が高らかに聞こえてくるが、ここが五十年も続く丼会の会場、いや講釈場である。
そもそもこの講談席が誕生したのは昭和二十四年。いまだ戦後の混乱期、好きな講談を聞く機会もなく寂しい思いをしていた下町っ子が、これまた上がる高座もなく苦しい暮らしの講釈師を見兼ねて、交友のあった講釈師を招いたのが始まりだという。
当初は有志の自宅や近くの神社などで開いていたが、そこへ鰻丼の出前をしたのが「両国」の先代蜷川巳佐也さんであった。巳佐也さんは戦災で焼けた鰻屋を現在地へ再開して間がなかったが、これが縁となってその後会場もこの「両国」に移し、丼会としてスタートしたのが昭和二十七年のこと、以来五十年。
その後先代亡きあと長男の明太郎さんが引き継ぎ今日に至っているが、代々書き継がれた根多帳には釈界の蒼々たる先生方の名前が記されている。また、一時は落語の文楽、志ん生、円生という名人達も講釈に交じって出演していたということである。
入口の暖簾をくぐり、狭い階段を二階に上がると右手の奥に高座ができている。さり気無く掛けられた掛軸に目をやると往年の名師たちの寄せ書きが見えた、何とも貴重なものである。二列に並んだお膳を前に好きなところへ腰を下ろすのだが、壁ぎわから埋まるのも講釈場の常。六時四十五分開演、と言っても同じ座敷の一角に衝立を立てた内が楽屋で、そこから高座に上がるのである。いかにも下町の気取らないところが五十年も続いた秘密なのかも知れない。
これから二席聞いたところで仲入り。お茶とおいなりさんが一つ出て、いよいよトリの登場だ。三席たっぷり講釈を聞いて、終わるとすぐ付出しにツクネの串が二本、お酒が一本、最後に鰻丼が出る。高座を終えた講釈師を囲んでしばし下町の風情を味わうことができる。これで今時四千円とは見逃せない穴場ではないか。ぜひ丼会を覗いてみよう。
四、五十人も入ると満員のため予約をお薦めする。
毎月二十一日(七・八月は休み)。 電話 03-3631-7543 「両国」
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